【近未来ショートショート】 第6話 「スクエアワクチン」
時は20XX年。
世界はカジミウイルスに侵されていた。
カジミウイルスは身を焦がれるような症状を起こし、今や致死率が10%にもなっていた。
人類は恐怖に怯えた。
全世界の人口の10%がわずか1年で減ってしまったのだ。
このカジミウイルスに対抗するために、全世界でワクチンの研究に膨大な資金を注入し、ついにカジミウイルスに対抗できるワクチンが発明された。
それがスクエアワクチンだ。
スクエアワクチンの効果は絶大で、致死率10%だったカジミウイルスが、スクエアワクチンを打った人については致死率が0%になったのだ。
その奇跡的な効果に、全世界は驚喜に沸いた。
これでみんな救われる。
全世界の人々がそう信じた。
しかし、なんだかんだいってワクチンなのだ。
どんなワクチンにも副反応がある。
もちろんスクエアワクチンにも副反応が出だしたのだ。
しかもスクエアワクチンの副反応率は、なんと50%以上という驚くべき確率なのだ。
いったいどんな副反応なのか?
スクエアワクチンの副反応は、その人の人格が今までとは全く違う人格になったかのようになってしまう、というものであった。
え?ホントにあなたなの?と、別人かのように人格が変貌してしまうような副反応がスクエアワクチンでは50%の確率で起こるのだ。
命は100%助かるが、50%の確率で人格が変貌する。
人権保護を謳うアクエリアス党なんかは、スクエアワクチンは止めるべきだ、と主張した。
水の国の人々は、スクエアワクチンを打つ人はほとんどいなかった。
こういう一部の人たちはスクエアワクチンを拒絶したが、背に腹は代えられぬ、と人類の多くはスクエアワクチンを打った。
スクエアワクチンによって、全世界の人口減少は止まった。
さらに、スクエアワクチンの副反応の影響なのか、珍現象も起こった。
その珍現象とは、世界的に離婚率が劇的に減少したのだ。
それまでの世界の離婚率は50%を超えていたのだが、スクエアワクチンの普及によって、世界の離婚率は20%以下にまで下がったのだ。
離婚する人が激減したのだ。
離婚率が激減したことによって、世界の出生率も急上昇していった。
その影響でじょじょに世界の人口も増えだした。
カジミウイルス発生から10年、ついに世界はカジミウイルス発生前の人口にまで回復したのだった。
今や、アクエリアス党も水の国の人も、だれもスクエアワクチンを拒絶する人はいなかった。