【ショートショート】ひったくり
ある晴れた日、太陽射手座のネリマが道を歩いていた。
すると、道の正面からやせ細った男が歩いてきて、ネリマに話しかけてきた。
「財布を落としてしまって、今どうしてもお金がいるのですが、5000円ほど貸してもらえませんか?」と唐突に、やせ細った男はネリマに頼んだ。
見ず知らずの男にいきなり声をかけられたネリマだったが、なんだかこのやせ細った男があわれに思えて、「ちょっと待ってくださいよ」と言って、ポケットから財布を出して中身を調べて、5000円札があったので取り出した。
すると、それは一瞬の出来事だった。
なんと、やせ細った男は、有無も言わせず、ネリマが取り出した5000円札をひったくり、そのまま来た道を一直線に走って逃げて行った。
あまりの急な出来事に呆然とするネリマ。
「あっ」という一声すら出なかったネリマ。
ただただ走り去るやせ細った男。
呆然としたネリマは、口をポカンと開けたまま、走り去るやせ細った男を見守るだけ。
一歩も動かないネリマ。
やせ細った男の逃げるスピードはすごかった。
ネリマは思った。
人間って、こんなに速く走れるんだな。
こんなに速く走る人間を初めて見たネリマ。
やせ細った男は一直線に逃げて行ったが、100メートル先くらいで右に曲がって行き、ネリマの視界から消えた。
あ、いなくなった。
ネリマはホッとした。
何にホッとしたのか?
太陽が気持ちいい。
近くの川のせせらぎが気持ちいい。
ネリマは何事もなかったかのように、また歩き出した。
やせ細った男が逃げて行った道を歩いて行くネリマ。
ゆっくりと。
悠然と。
雲一つない青空の下で。
おしまい
(※)本日のショートショートは、実話をもとに、詩っぽく書いてみました。